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『幻色江戸ごよみ』(宮部みゆき)

 私事で恐縮ですが、今日はいろんな人のいろんな話を聞いて、やる気のあるひとの熱に打たれて、 がんばろうと思いました。
 うまく行かないことばかりだし、頑張っても報われないことも多いけど、  それでもその頑張りだとかやる気だとかは、必ず誰かに影響を与えて、次につなげることができるんじゃないかと。
 そんなことを、この作品の中の何人かの登場人物にも言ってあげたいなぁなんてマクラは強引ですか? そうですか。
 火が出たのは師走の二十九日の夜、伊丹屋の誰もがぐっすりと眠っている時刻だった。 火事だ! という大声におとよは寝床から跳ね起きたが、おかつのほうはゆすぶって起こしてもまだ寝ぼけ顔という有様だった。 おとよはおかつを怒鳴りつけ、声のする方向へ走った。 そして、仏間にかけつけた面々の頭上で、ぱちぱちとはぜるような音をたててもえあがっているものを見つけたとき、 おとよは、口が開きっぱなしになってしまうほどに驚いた。 燃えているのは、神棚だった。
 これが最初の作品『鬼子母火』。他に『紅の玉』『春花秋燈』『器量のぞみ』『庄助の夜着』『まひごのしるべ』 『だるま猫』『小袖の手』『首吊り御本尊』『神無月』『侘助の花』『紙吹雪』の12編が収録されています。
 ハッキリ言って全体のイメージは暗め。読んで幸せになるとは言えない話が多いんだけど、 だからこそ、最初に言ったようなことを考えてしまうというか、何かを見つけてあげたくなる。
 こうも感情移入してしまうっていうのは、きっと人物のリアリティ、生活のリアリティのせいで、例えばこんな下り。

それなりに愛着のわいたその部屋に、ぎんはゆっくりとあがっていった。 梯子段はいつものように五段目のところできしみ、ぎん独りしかいない家のなかに、大きな音を響かせた。

 「まるで見てきたような」なんてことはよく言いますが、これなんかは まるで生活してきたよう。 こういう何気ない文章によって登場人物たちが生きていることを感じ、感情移入してしまうのかな。
 ま、ハッピーエンドのほうが断然好きなんですけどね。

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