最近のトラックバック

スポンサード リンク


  • Google
    Web sketch.txt-nifty.com

リンク

« 2001年5月 | トップページ | 2001年7月 »

『東亰異聞』(小野不由美)

♪あなたーの燃える手でーわたしーを抱きしめてー
「それって火炎魔人じゃん!」
 こんなワケの分からないツッコミをしてしまうのは、この本を読んでたせいです。
 帝都、東亰とうけい。 江戸みなとから始まって、 時代の力を糧に肥大しつづけたこの地が、従来の呼称「江戸」から「東亰」へと名を変えて二十九年が経つ。 文明開化の波は都の景色を一変させたが、それも全ての闇を払うものではなかった。 近頃、巷では怪しげな者たちの噂が絶えない。 人魂売り、居合抜き、首遣い、火炎魔人に闇御前。 そして、それらを闇から見守る黒衣の人形遣い。 帝都日報の記者である平河新太郎は、浅草に住まう便利屋・万造とともに、 事件の真相をつきとめようとするが──
 「東京とうきょう」じゃなくて 「東亰とうけい」なのがミソ。 東京のようで東京ではない、しかし、全く別の地であるとは言いきれない──ってなところでしょうか。
 小野不由美の作品なのでホラーかファンタジーか、と思いながら読んでいたのですが、 どうやら犯人がいるらしい。実は純粋なミステリなのかなと思って読んでいると今度は……。 ってな感じでどっちを信じていいか分からないんだけど、結局どっちなのかは、まあ自分でどーぞ。
 人形遣いと文楽人形といい、美少年・たすくといい、 いかにもなキャラだなぁと思ってたらやっぱりシリーズ化するような気配が。 今回はキャラ見せだったのかな。
 ラストでの東亰の街の描写は印象的でした。
 以下ネタバレ。
 闇御前と火炎魔人が産まれたその理由。 たしかにびっくりはしたけど、はた迷惑な話だなぁ。 いくら兄弟だと言っても、そんなこと二人で考えるかぁ?  関係ないのに殺された人の身にもなって欲しいもんです。自分が死を覚悟してるからなんてのは関係ないです。 直なんかもっとしっかりものだと思ってたのに全くもう。
 大団円では万造が正体をあらわしたことで この話全体がひっくり返るほどの顛末を迎えるわけですが、 このことによってミステリとしての構造が壊れちゃった印象を受けてしまうのがちょっと残念でした。
 次の巻からのほうが面白くなりそうかな。

『本所深川ふしぎ草紙』(宮部みゆき)

 電車の中、いつものように本を読んでいると、隣りに座っていた おばあちゃんが話し掛けてきました。
「いまなんて駅でしたかね。わかんなくなっちゃって……」
「いま日吉を出て、次が武蔵小杉ですよ」
「あら、そう、急行は速くてびっくりしちゃうわねぇ」
「そうですねぇ。最近は特急なんかもできましたしねぇ」
 思わず相槌を打つと、ばあちゃんは目を輝かせて話し出しました。
「あなた、それ何読んでるの?」タイトルを見せると「読めない。何て書いてあるのかしら?」
「え……と、『本所深川ふしぎ草紙』っていう本で──」
「本所深川って、江戸の? へえ! あなたそういうのが専門なの?」
「いや、別に専門とかじゃなくて──」
「なんて人が書いてるの?」
「宮部みゆきって人なんですけど──」
「へえぇ。偉いわねぇ。下町のねぇ」
 何が偉いのか全然わかりませんが、電車の中、大声で読んでる本を発表させられて恥ずかしかったっす。 変な本読んでなくてよかった。
 近江屋藤兵衛が死んだ。 その知らせを、彦次は蕎麦の湯が煮えたぎる釜の前で耳にした。 聞けば、本所一帯を仕切る岡っ引きの茂七は、娘のお美津が怪しいとにらんでいるらしい。 しかし彦次は、お美津を知っていた。お嬢さんは、そんなお人じゃない──。 かつて世話になったお美津のため思い悩む彦次だったが、 蕎麦屋の主・源助の言葉から、藤兵衛の葬儀に見かけた不審な娘の姿を思い出す。 彦次は茂七のもとを訪ね、全てを語った。茂七から知らせが入ったのは、それから半月もたたないある日だった──
 なまじ おばあちゃんに分かりそうな本だったのがいけなかったのでしょうか。いや、別にいけなくはないか。
 とにかく、おばあちゃんにも分かるように説明すると、 江戸の下町・本所に伝わる七不思議── 『片葉の芦』『送り提灯』『置いてけ堀』『落葉なしの椎』『馬鹿囃子』『足洗い屋敷』『消えずの行灯』── それらになぞらえた七つの物語を収めた短編集です。
 『初ものがたり』の茂七親分も登場して、あいかわらずの人情の分かる親分っぷりを発揮してくれてます。 『落葉なしの椎』のラストなんて泣かせる。くー。
 さらに『置いてけ堀』では何だか『巷説百物語』(京極夏彦)ばりの活躍をしてくれちゃって、 『巷説──』を読んだばかりのぼくとしてはいろいろ面白かったんすよ、おばあちゃん。
 というわけで最後ちょっとネタバレでおしまいです。
 一番印象に残った台詞は『足洗い屋敷』で、おみよがお静に言った台詞。
「ねえ、おっかさん。おっかさんは、子供の頃に、汚い足をいっぱい洗ったんでしょう?  丁寧に、綺麗に洗ってあげたんでしょう? だから、たくさんの福がついたのよ。 これからはたくさん良いことばっかりがあるはずなのよ。 また足を洗う夢を見たら、そういうふうに思ったらいいわ。ああ、これは、幸せがやってくるしるしだ、って」
 くー。泣かせる。こんなけなげなこと言う子供をアナタ裏切れますかどうですか。 それでも裏切る大人はいるわけで、そういう人物を描くところが、描いても嫌な読後感にならないところが、宮部みゆきらしいっす。

« 2001年5月 | トップページ | 2001年7月 »

ブログパーツ



2021年7月
        1 2 3
4 5 6 7 8 9 10
11 12 13 14 15 16 17
18 19 20 21 22 23 24
25 26 27 28 29 30 31
無料ブログはココログ